日々の症例 15 無鈎条虫症 



 

15) 50歳代、男性。2年前から排便時に虫体を排泄していた。


画像所見 : 小腸ゾンデからガストログラフィン500mlを注入して駆虫を行っている最中のX線像である。虫体がひも状のfilling defectとして確認でき、腸の蠕動運動と共に小腸から横行結腸まで押し流されている。腸蠕動が弱まると、まるでヘビが川を遡上するかのようにうねうねと動く様子がX線透視で観察された。この後一気に排便を行い、虫体が完全に排出された。
>診断 : 無鈎条虫症(Taenia saginata
>解説 : 無鈎条虫 はヒトを終宿主とするきしめん状の寄生虫で、長さは410m にもなる。いわゆるサナダ虫の一種で、ヒトの小腸に寄生する。虫体は多数の体節からなり、虫卵を有する体節が順次離脱して糞便中に排泄される。外界に排泄された虫卵は牛に摂食され、牛(中間宿主)の小腸内で孵化して血行性に牛の筋肉内に達し、嚢虫となる。ヒトへの無鈎条虫の感染はこの嚢虫を含んだ牛肉の生食で成立する。摂取された嚢虫は23ヵ月で成虫となり、再び多数の虫卵を含んだ体節が便中に排泄されるようになる。
<メモ>
ちなみに、豚肉の生食で感染するのは有鈎条虫で、ヒトは終宿主にも中間宿主にもなる。従って、経口的に有鈎条虫の虫卵に感染した場合は血行性に全身に散布され、恐ろしい有鈎嚢虫症に進展する恐れがある。
牛肉を食べて感染するのが無鉤条虫、豚肉を食べて感染するのが有鉤条虫!
「牛に角(鈎)なし、豚に角(鈎)有り」と覚える。

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