日々の症例 9 脾損傷と腹腔内出血





9-1) 10歳代、女性。腹部打撲 (交通事故)

>画像所見 : 単純CTでは脾臓の周囲に新鮮な血腫を示唆する淡い高濃度域が拡がっている。脾実質内にもhigh density areaがみられ(↑)、新鮮な血腫と考えられる。造影CTでは正常脾実質が明瞭に造影されるため、単純CTとは逆に脾周囲の出血と脾実質損傷が明瞭な低信号域として確認できる。
>診断 : 脾損傷と腹腔内出血
>解説 : 脾損傷では他の実質臓器損傷に比して腹腔内出血を伴うことが多く、出血のコントロールの成否が治療方針を決定する最重な要因となる。損傷の程度と出血量との間には明かな相関はみられず、受傷初期には軽微な損傷であっても経過と共に血腫が増大することもある。従って、経時的な血液検査と共に必要に応じてUSCTを繰り返し、時期を逸せず脾動脈塞栓術あるいは開腹手術が行える態勢が必要である。本例は幸いにも保存的治療で軽快した。
<メモ>
・ 日本外傷研究会脾損傷分類 (日外傷研会誌 7:219,1993)
  T型 : 被膜下損傷 (Subcapsular injury)
  U型 : 被膜損傷 (Capsular injury)
  V型 : 実質損傷 (Parenchymal injury)
       a. 単純型 (Simple type)
       b. 離断型 (Transection)
       c. 複雑型 (Complex type)
       d. 粉砕型 (Fragmentation)
  W型 : 脾門部血管損傷 (Hilar vessel injury)
  Appendix : 被損傷に合併した脾門部血管損傷の表現 脾門部血管損傷 (HV)


9-2) 10歳代、男性。自転車で転倒し、左側腹部を強打。 


>画像所見:脾の内部エコーは不均一で、脾内の血腫に相当する部位(※)にはドプラ信号もみられない。左側腹部の腹水は比較的澄んでいるが、下腹部の腹水は混濁しており、多量の腹腔内出血を伴っていることが分かる。
>診断:脾損傷と多量の腹腔内出血
>解説 : 9-1)へ
<メモ>
外傷時特定部位超音波検査(FASTfocused assessment with sonography for trauma):外傷の初期診療においては、心嚢、左右肋横角、モリソン窩、脾周囲、ダグラス窩6か所をすばやく超音波検査を行い、心タンポナーデ、腹腔内出血、血胸の有無を確認することが重要とされている。FAST は必要に応じて繰り返し行うこと。

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