日々の症例 74 腹腔内遊離ガス



 


74-1
30歳代、男性。 腹痛

>画像所見 :
US : 右肋間走査で壁側腹膜からはじまる多重反射がみられ()free airの存在が疑える。US像の両端にある多重反射(*)は探触子と腹壁との密着不良によるアーチファクトである。
CT : USと同様、肝表面にごく少量のfree airが明らか()
>診断 : 腹腔内free air
>解説 : 本例は穿孔性十二指腸潰瘍であったが、保存的治療で軽快退院となった。超音波検査はガスに対して極めて鋭敏であり、本例のように肝表面に移動したfree airは極微量であっても明瞭な多重反射として確認できる。


74-240歳代、男性。急性腹症

>画像所見 :
US : USでは腹壁の層構造は正常だが、肝表面からはじまる多重反射がみられ、free airの存在が分かる。
胸部単純X線写真:両側横隔膜下に多量の遊離ガスが明らか。
ガストログラフィンによる消化管造影:十二指腸潰瘍穿孔部(←)から造影剤が腹腔内に漏れ出ている。
単純CT : 腹腔内に漏れ出た造影剤(ガストログラフィン)は肝周囲に広がっている。両側腎盂も高濃度で、腹膜から吸収された造影剤が尿路系に排泄されていることが分かる。
>診断 : 十二指腸潰瘍穿孔、腹腔内遊離ガス
>解説 : 水溶性造影剤は消化管内にある限りは、吸収されることなく便と共に排泄されるが、消化管外に漏れると、腹膜から吸収され、腎尿路系を経由して排泄される。従って、消化管穿孔を疑う場合、水溶性造影剤を経口服用させて腎からの造影剤の排泄の有無を確認することで、消化管穿孔の存在を確認することもできる。

74-350歳代、男性。急性腹症

>画像所見:この腹部単純X線写真は液面形成のある胃泡がみられることから、立位で撮影されていることが分かる。右横隔膜下が明るく、腹腔内free airの存在が疑える。立位胸部単純X線写真では両側横隔膜下に多量の腹腔内遊離ガス(free air)が半月状の透亮像として明瞭に確認できる。

>診断:多量の腹腔内遊離ガス(pneumoperitoneum

>解説:X線ビームの入射角度の関係で、腹腔内遊離ガスの同定には、立位の腹部単純X線写真よりも胸部単純X線写真の方が鋭敏である。腹部単純X線写真で少量のfree airを確認するためには、左側臥位正面像(デクビタス像)が有用とされているが、遊離ガスが腹壁と肝表面の間に移動するのに左側臥位で数分以上待つ必要がある。本例は緊急手術が施行され十二指腸潰瘍穿孔であった。

 <メモ>
急性腹症における単純X線写真
1)動ける場合は下記の3枚:
 ①立位胸部正面像 ②立位腹部単純像横 (横隔膜を入れる) ③背臥位腹部単純像 (鼠径部を入れる) 
2)動けない場合は下記の3枚:
 ①背臥位胸部正面像 ②背臥位腹部単純像 (KUB) ③左側臥位正面像 (デクビタス像) 
・もちろん、CTを撮像するのであれば、単純X線撮影は不要である。

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