日々の症例 37 成熟嚢胞性奇形腫             






37-1) 17歳、女性。下腹部膨隆。(子供の頃より下腹部が出っ張っていた。)


>画像所見 : 腹部単純X線像で骨盤腔内のdensityが上昇しており、S状結腸を圧排する(→)大きな軟部腫瘤の存在が示唆される。さらに奥歯の形状をした石灰化も見られる。単純CTでも骨盤腔内に10cm大の嚢胞性腫瘤があり、内部に脂肪塊と石灰化巣(歯)がみられる。
>診断 : 成熟性嚢胞性奇形腫(nature cystic teratoma)
>解説 : 小児〜若年婦人に後発する卵巣由来の嚢胞性奇形腫で、dermoid cystとも呼ばれる。捻転して急性腹症を呈し得る代表的腫瘍。嚢胞内にはRokistansky dodule、dermoid plug などと呼ばれる壁在結節を伴うことが多く、ここに皮脂、毛髪、歯、骨などの三胚葉成分が含まれている。大多数は良性であるが、1〜3%の頻度で悪性化をきたすことがある。特に高齢者の大きな cysstic teratoma では、悪性転化の可能性が高くなるので充実性部分の壁外浸潤の有無に要注意。いずれにしても年齢や大きさにかかわらず、手術適応である。本例は明瞭な歯が写っており、腹部単純X線写真のみでも確定診断できる。


37-2) 40歳代女性。検診のUSで卵巣腫瘤を指摘され、MRIを依頼された。

>画像所見 : 右卵巣に一致して4535mm大の腫瘤がみられる。T1強調像で高信号を示す領域(※)は脂肪抑制像で信号が低下しており、脂肪成分であることが分かる。腫瘤内部にはhair ballと思われる球形の充実性部分もみられ、脂肪成分との境界に薄い三日月状のchemical shift artifactもみられる。
>診断 : 成熟嚢胞性奇形腫(mature cystic teratoma)


37-3) 10歳代、女性。右下腹部痛。CRP 0.1 WBC 14780


>画像所見 : USで短径1cmとやや腫大した虫垂が描出され(↑)、腹痛の部位とも一致した。CTでも同様に腫大した虫垂が明かで、根部に糞石と考えられるhigh densityもみられる(△)。さらに小骨盤腔内に脂肪と水と石灰化のdensityからなる5cm大の腫瘤がみられる。(USでは高エコー腫瘤として描出された。)
>診断 : 急性虫垂炎(acute appendicitis)、成熟嚢胞性奇形種(mature cystic teratoma)
>解説 : 右卵巣に一致した5cm大の腫瘤は内部に脂肪と石灰化巣を含有していることから類皮嚢腫と診断できるが、右下腹部痛の原因が急性虫垂炎によるものか類皮嚢腫の捻転によるものかを鑑別する必要がある。本例ではUS、CT共に腫大した虫垂が明瞭に確認され、臨床所見なども総合して急性虫垂炎による急性腹症と考えられた。手術所見では虫垂は蜂窩織炎性虫垂炎で、卵巣は毛髪と歯芽および皮脂を含む典型的な成熟嚢胞性奇形種であった。

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